情報システム開発にあたって最大の難関はシステム会社選定である。

2014/08/18

システム構築プロジェクトの成功率はわずか3割という定説があります。
実に7割のプロジェクトが、途中で行き詰まりやむなく中止したり、完成してもシステムが動かないそうです。

3割という数値の出処について、グーグルで検索したところこんな記事を見つけました。日経コンピュータが2003年に発表しているようです。

「システム開発プロジェクトの成功率はわずか26.4%。本誌が大手から中堅・中小に至る1万2546社を対象に実施した調査で、衝撃的な事実が判明した。システム開発で守るべき3条件、すなわち「QCD(品質・コスト・納期)」をクリアできなかったプロジェクトが、全体のほぼ4分の3に達した。」
引用元:http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NC/TOKU1/20031111/1/

そして、2008年に調査された結果に関しても、以下のような見出しで誌上公開されました。

「プロジェクトに成功する企業と失敗する企業の二極化が進んでいる――。
本誌が5年ぶりに実施したシステム開発プロジェクトの実態調査から、こうした現状が浮かび上がってきた。
全体の成功率は31.1%で5年前より4.4ポイント上昇。
引用元:http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NC/20081126/319990/

ここまでまとめると2003年調査で26.4%、2008年には31.1%。かなり悲惨。ソフトウェア産業以外ではあまり見られないのではないでしょうか。2014年のデータが気になりましたので、Google先生に聞いてみたところアップデートは出てきませんでした。替わりにニュースのアーカイブや記事はたくさんヒットします。2013年のエントリで「成功率はわずか2~3割」と出てきますので、プロジェクト管理手法はここ数年はあまり進化してないのでしょうね。

次に成功した3割のプロジェクトについて、システムベンダに対するクライアントの評価を調べてたみたところ、日本情報システム・ユーザー協会さんが「開発委託先別満足度調査」なるものを発表していました。

manzokudo
【日本情報システム・ユーザー協会 第17回企業IT動向調査2011より】

これを見ると、業務理解力、動員力、契約の履行などといった「言われたことをソツなくこなす請負業者」としての採点はまあまあではありますが、新技術の応用あたりから雲行きがどんどん怪しくなり、提案力となると相当辛口の評価となっています。

ここで評価対象となった発注先(システムベンダ)は、クライアント企業とそこそこうまく行っており、継続的な取引関係かと思われます。 この段階まで生き残った発注先ですら渋い評価ですから、失敗プロジェクトに関わった発注先は、所謂論外なパフォーマンスだったのでしょう。おそらく既に関係は絶たれているものと想像します。

わたくしが思うには、発注先(システムベンダ)だけの問題ではなく、クライアント企業にも問題があるはずですが、それはいったんちょっと横に置きます。

ここまでのデータから弾き出される仮説として、システムベンダの実力不足と、クライアントとのミスマッチがあります。前者でいえば未熟なベンダでも食べていける環境があったため、産業全体として力不足ともいえます。クライアント企業は、この7割を要因を生み出した発注先の実力や、自分たちとの相性を事前に察知することは、できなかったのでしょうか?

いや…。これは実はとても難しい「問い」です。私自身、現場でたくさんの実例を見てきましたので、一筋縄ではいかないことを熟知しています。

本来は表に出せない話しですが、いずれは語るべきと考えてますので差支えない範囲で記載しますと、

———————————————————————————————————

・3社から相見積りを集め発注先を検討。メーカー系システムベンダに基幹業務システム構築を発注。要件定義フェーズでベンダの理解力が無いことが発覚し、かつスケジュールが大幅に遅延したためプロジェクト中止。稼働期間の対価を求めるベンダとの精算をめぐって係争となった。当社に依頼されて仕切り直しスタート。無事にシステムは完成し安定稼働に至るものの手痛い出費となった。

・ベンチャーを含めた5社のコンペを行い、意見は割れたたもの安定感を重視して大手を選定。基幹業務システムの再構築。しかし従来の業務をなぞったシステムに仕上がってしまい役員会からは不評。納期も大幅に遅延したうえ、業務も変わらず費用対効果に疑問が残った。

・相見積りで、当社の半額以下の費用を提示したシステムベンダに、システム構築を発注。要件漏れ、実装漏れなどで大幅に遅延。システムベンダによくよく尋ねると人材派遣が主業務であり、請負開発、特に1,000万以上規模を請けるのは初めてだったことが発覚。完成のメドがつかずシステムベンダに中途解約および全額返金を要求したが交渉難航。途中から当社にもスポットでのプロジェクト支援の要請があり、参加したところから全容が明らかになった。

——————————————————————————————————

実際にわたくしが受けた相談内容ですので、デリケートすぎてとても書けない事例があと10件ほどあります。
そしてこれらの実例にはすべてにおいて共通点が。。

1. 選定作業に時間をかけすぎる

具体的に言うと、

  • 準備(ベンダと会ったり情報収集したりも含む)に1ヵ月
  • ベンダへの提案依頼や調整に2ヶ月(役員からの意見で方針を変えたい、付け加えたいという手戻り的な調整も含む)
  • 選定作業に1ヵ月(他社さんではこんな提案があったので、お宅はどうか?的な追加の調整も含む)

という感じです。迷っているときに時間をかけすぎると、かえって判断の質が下がります。

2. システムベンダに対して発注慣れしていない

日常的にシステムベンダとおつきあいし、何らかの発注を切らさないようなクライアント企業の場合、ベンダの行動様式が分かり、何が期待できるかも分かり、彼らをうまく動かすにはどうすれば良いのか熟知しています。

「発注慣れしていない」というのはこれと真逆な状況で、3年前に発注したが過去感覚になっているとか、社内に目利きできる人がいないことを指します。

3. 選考をとことん自力にこだわる

自力主義はいちがいに悪いとは言えないのですが、上の2つの条件がそろったうえでの自力主義は、失敗への道にまっしぐらとなります。

そして最後に…

下記のレポートが役に立つはずです。いますぐ無料でお取り寄せください。
(執筆は本記事と同じく谷尾が書いています)

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。