「動かない」ケースを学ぶ効用について

2014/09/08

先日「情報システム導入にあたって最大の難関は発注先選定である」というエントリを書きましたが、関連して「動かない事例」の記事をピックアップします。

kiji

つい先月、日経コンピュータ(2014年8月)から『評価激変!「動かない」に悩む中堅中小』という見出しで特集が出ました。

要件定義が不十分、価格の安さでベンダーを選ぶ、システムに疎い人が意思決定、無理な納期・予算を設定ーーー本誌「動かないコンピュータ」で幾度となく登場した失敗したパターンが、今も多くの企業で繰り返されている。回答企業への直接取材でこの事実が改めて浮き彫りになった。

動かないシステムの実例

次に「動かないシステム」の実例が紹介されています。

調査対象となった10社のうち8社がシステム構築に関わる大きなトラブルに遭遇したそうです。

  • メインフレーム+スクラッチ開発からオープン系+ERPパッケージへの切り替えにつまずく。プロジェクト開始後1年で稼働させる予定が3年経っても稼働せず。
  • 20年来の付き合いのあったベンダーが担当していた販売管理システムがコンペで別ベンダーに。構築でトラブル、コストは当初予算の3倍に膨れたが稼働せず。
  • 基幹システムの開発でコンサルティング会社が責任放棄し、開発会社との連携に支障。バグ改修に追われ、稼働後1年たっても正常運用に至らず。
  • 自社に合わないパッケージを上層部主導で導入。思うような効果が出ず、製品リプレースを検討するがコスト面で見送り、仕方なく利用を継続。

おそらくプロジェクト発足時には予想できなかった顛末だと思われます。あまりオモテには出てこない「動かないシステム」の氷山の一角でしょう。

「知る機会」はユーザ企業の権利

このような実例を発注者であるユーザ企業が「知る機会」が大事です。その機会がないままプロジェクトに足を突っ込むのは「闇夜に鉄砲」だからです。

ちなみにネガティブな側面を取り上げて不安を煽ることに反対意見も出ていますが、日経コンピュータ誌の『無法なベンダからユーザー企業を守る』『業界の発展を目指す』姿勢に敬意を感じていることを付け加えます。

さて、それに対して同誌の要因分析はこうでした。ユーザー企業側の責任に言及しているのが興味深い。

  • パートナーを「価格の安さ」「プレゼンの上手さ」だけで選ぶ
  • システムに疎い人が意思決定
  • 無理な納期・予算を要求
  • 開発体制が下請け構造で、意図・仕様の伝達に不備
  • 契約があいまい
  • 上流工程で時間がかかり、テストが不十分
  • 製品導入のセオリーを無視(主にERPパッケージ)
  • ベンダーの作業・成果物に体するチェックが甘い

しかし…指摘されていることは経験値を要するものばかりですね。中堅中小にはかなり厳しい要求事項です。

足りないものは補完する。そのために・・・

ユーザー企業は「動かないケース」をもっと研究する(そのための事例ネタが必要、日経BPさん、さらなる取材と情報提供を期待してます)。ベンダ側はユーザーに足りない知識や経験を補うコンサルタントを育成し、適切な価格で提供する。業界側の立場では、このように思う次第であります。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。