利活用という言い回しの不思議
最近よく出てくる言葉で、なんでそんな表現を使うのか気になる用語があります。
それは「利活用」です。「利用」と「活用」を合成したと思われますが、それなら「利用」もしくは「活用」でいいんじゃないのと思うのです。
グーグル先生に聞いてみたところ、先頭にヒットしたWeblio辞書にはこう書かれています。
「利用」と「活用」2つの言葉の意味を掛け合わせた言葉。「土地の利活用」、「ITの利活用」といった具合に使われる。「整備文」の中で主に使われる、お役所言葉。
ナントお役所言葉と規定されておりました(驚)、次にYahoo知恵袋でのエントリ。
利用と活用を合体させて、お役所言葉ですので、真剣に考えない方がよいでしょう。
利用、でも、活用、でもいいことです。
お役所言葉のウラの意味は「せっかく作った○○を、ムダには見えないように、一生懸命利用・活用されれているように見せること」というようなことでしょうか。
同じくYahoo知恵袋ですが、一番腑に落ちたのがこれ。
利用も活用も似たような意味ではあるけれど、「活用」の方が一層上手に能力をフルに引き出してあげている、と感じる人が多いと思います。わざわざ利用+活用と合体する意図としては、「単に利用してもらうだけでももちろん結構なのだけれど、更に”活用”のレベルまで使いきっていただけたら嬉しいんです」みたいな語感にしたいのでしょうね。
さておきお役所から発信される情報に「ITの利活用」といった具合でたくさん見かけるこの言葉。
忖度して解釈すれば「せっかく作ったITを無駄に見えないように、みんなで一生懸命活用していただけると嬉しい」というところでしょうか。
どうやら「IT」というものは、実はあまり役には立たないという、誰も表立って口に出せないテーゼがありそうに感じます。
つまりネガティブな状況が前提にあって、そうでは無いイメージを一生懸命につくり上げるのが「ITの利活用」。
「私ら実はITは眉唾というか、あまり信じてないんだけど、何故か予算だけはあるんです。だからわざわざ「役に立つIT」という標語を掲げたので、この指に止まっていただけたら嬉しいんです」
という想いを言葉に込めたのではと、私なりに解釈してみました。
ちなみにITがうまくいくかは、実例上はうまく行ってないほうが多い。事情については以下のエントリに記載しました。
・システム開発は、なぜ予想よりも長くかかり高くなるのか?を考えてみる
・システム開発プロジェクトの成功率はわずか3割という理由について、ビル建設との比較で考えてみる
・なぜ8割の企業がシステム導入に失敗するのか?
・新レポート「基幹システム再構築の成功法則大全」のお知らせ
・スケジュールチャートだけでは進捗実態が掴めないシステム開発プロジェクトの不思議
・「動かない」ケースを学ぶ効用について
というふうに、結果だけを見ると残念な事例が多いため、ITにあまり期待しない層が存在するのは仕方が無いかも知れません。
しかし、うまく行かない理由は一部の人間たちにはほぼ解明されていて、それを避けるアプローチで、うまくいくケースが実は沢山あります。
なのでITでうまく行っている側の人達は、決して「ITの利活用」という表現は使わないのです。
文責:谷尾 薫 オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社
ITプロジェクト支援、企業のシステム内製を支援する戦略チーム
この記事を書いた人について
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オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事
富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。
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