武雄市図書館という「変革」がもたらすこと
武雄市図書館についてはこちら
TSUTAYAとスターバックスがある図書館として全国的に話題になっているようです。
ちなみに武雄市がある佐賀県における住民一人あたり貸出数は、全国第三位(2位は東京都)。貸出しサービスがそれなりに普及しているところに民間が入ったことも、注目度が高い一因だと思われます。
さておき、自分の暮らす街の図書館がTSUTAYA運営となり、スターバックス併設となると、「まぁ!それは嬉しいわ!」となるはずですが、民間との協業を問題視する声が多く挙がっており、賛否両論なようです。
そこで実際どうなんでしょう、的なことを考察してみます。
この本が図書館の在り方についてわかりやすく概説してくれています。該当箇所をピックアップしてみます。
・図書館は地域のおける文化のバロメーターである。
・書店の代替物ではない。個人でもちえない広い範囲の蔵書を持つ。
・市販されていない貴重な資料が地域では多数発行されているのだが、そうした資料を集めることができる。
・図書館は本という知的文化財を共同所有する仕組みで、古代ギリシアの時代から堂々として存在し続けている。税金で資料を購入し、これを住民みんなで共同使用するものである。
・ちょっと前に作家や出版関係者の中で図書館が大量のベストセラーを貸し出すことで、自分たちの利益が損なわているという主張が行われた。確かに大都市圏の図書館を中心にベストセラーについて何冊も同じ本を貸す傾向が見られる。こうなると無料貸本屋と言われても仕方がないが本来、図書館は売れないものも含めて蔵書をつくることで、文化推進の重要な役割を果たすことになるはずだ。
ということなのですが、その一方では図書館の消費主義への対応について下記のように警鐘しています。
・貸出しを目的視することによって市場社会とバッティングする図書館サービス(中略)。
・図書館が採用した消費主義への対応は図書館自体を教養主義から遠ざける方向に採用した。
このように方向性について危ぶみながらも、実際のところは、
図書館でも貸出数に占めるベストセラー本の割合は1%以下でしかない。むしろ市民のニーズに対してきわめて多様な本が利用されているのである。
であると書かれています。以下の様な提言も興味深いところです。
・そもそも図書館に書店のワクワク感を期待するのは間違いであり、出版物のフローを担う場である書店と、ストックを扱う場である図書館とは異なった存在であると考えられる。人は書店にて自分が最も欲しいものを手に入れるのであり、公共機関としての図書館には、市場原理がもたらす消費的な原理とはいったん距離を置いた文化的な目的に基いて経営を行うことが要求されるはずであろう。そこには明確な文化的目的意識が必要になる。
・図書館の無料貸し出しは貸本屋やレンタル店とどこが共通し、どこが違うのか?有料か無料かは重要な違いだが、むしろ市場的なニーズに対応するだけなら、公立図書館よりも公設民営の貸本屋やレンタル店をつくれば良い。
・公共サービスの利用者負担論では、利用料金が財源の一部となり、需要をコントロールする効果や濫用を防止する効果があるだけでなく、料金をとることがサービスの質に対する信頼を与えたり、利用を増加させたりする効果が指摘されている。
ということで、読み応えのある良書でした。本書は図書館で予約して借りました。
ちなみにこのような図書館であれば間違い無く来館者は増えます。本に触れるきっかけも増えます。出版業界の市場規模が年々縮小されている現状、図書館の民間委託でも、電子書籍化でも何でもありで、読書人口をマクロで増やさないと、周辺地域の書店が困るというレベルの話しではなくなってしまいます。
ところで本書において「蔵書」という視点は、そもそも図書館という存在をさほどウォッチしてこなかった僕にとって目新しいものでした。読書人口が戻ってくれば、自宅に蔵書を持つことも想定されそうです。
僕も結構読む方で、自宅の本棚はパンクしそうなのです。 だからなるべく買わずに図書館でまとめて借ります。つまり図書館は自分の本棚替わりです。在庫にない本だけ書店やAmazonで購入しています。
図書館とリアル書店、Amazonの統合という視点で見ると(何気に唐突にAmazonですが)、こういう動きって時代の趨勢のような気がします。武雄市以外にも広まるような気がします。
一部で危ぶまれている、Tポイントにおける著作権法(貸与権)や個人情報の扱いについても、一応はクリアなようですしね。規約はほどほどに、便利さはどんどん追求、ということがよろしいのではと思った次第。
この記事を書いた人について
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オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事
富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。
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