ベンダの「良かれ」な忖度がプロジェクトを危機に晒すという話し

2024/09/10

はじめに

私自身、多くの発注企業とベンダーの間に立ち、様々なプロジェクトの仲介を行ってきました。
その中でうまくいかないプロジェクトの数々に触れる機会がありましたが、特に気付いたことがあります。それは、ベンダーが自社の内部事情や問題を抱え込んだ状態において、発注企業に対して「お任せください」と言い続けるケースが多いということです。

実際、開発者の離職やメンタル不調による戦線からの離脱、または自らの不手際による重要点の見落としなど、ベンダー内部のリスク要因を抱え込んでしまうことが頻繁にあります。 これらの問題が発生しても、ベンダーはそれを発注企業に伝えないことがあります。 その理由は「あくまでも我々(ベンダー)の事情であり、発注企業には関係ない」という忖度からです。このような姿勢が結果的にプロジェクトを苦境に陥れ、後になってから「実はかくかくしかじかで・・」と告げられることになりますが、すでに手遅れで、発注企業が割を食うという事態に陥ります。
このような状況は、ベンダーが自社の内部事情を勝手に忖度し、結果的に発注企業を苦境に立たせてしまうという問題を引き起こします。 プロジェクトの成功には、発注企業とベンダーの現実的な期待値の設定と、透明なコミュニケーションが欠かせないのです。

特に大規模なITプロジェクトにおいては、「リスク管理」がプロジェクトの成功を左右します。プロジェクトが計画通り進まない事態は避けられませんが、これをどのように管理するかが重要です。 特に問題なのは、ベンダが内部で抱えるリスクを発注企業に隠すことです。このようなリスクの隠蔽は、最終的にはプロジェクトの成功を危険にさらし、発注企業に深刻な影響を及ぼします。

ベンダが抱えるリスクとその影響

例えば、大手製造業A社のケースでは、システムの設計段階でベンダーが予期せぬ技術的問題に直面しました。ベンダーは内部で解決しようとしましたが、問題を隠したままプロジェクトを進行させました。結果、プロジェクトの後期に深刻な技術的障害が発生し、納期遅延と予算オーバーが発生しました。このケースでは、リスクを隠したことがプロジェクトの最終的な失敗に繋がりました。

リスクはプロジェクトの序盤で顕在化するわけではありません。多くの場合、問題はプロジェクトが進むにつれて明らかになります。発注者とベンダーの間には知識の差が存在し、発注者が見落とすようなリスクがプロジェクトの進行に悪影響を及ぼします。例えば、あるプロジェクトでは初期の要件定義が不完全だったため、システムが稼働する際に多くの不具合が発生しました。これにより追加費用が発生し、納期が延長されました。

リスク開示の義務とその重要性

ベンダーが抱えるリスクを隠さずに発注企業に開示することは、プロジェクト管理における基本的な義務です。ベンダーがリスクを隠すことで、発注企業は予期しない問題に直面し、プロジェクトが破綻する危険があります。実際に、リスクを適切に開示しなかったためにプロジェクトが失敗したケースは少なくありません。これには、技術的な問題、予算オーバー、納期遅延などが含まれます。

リスク開示が義務である理由は、プロジェクトが順調に進行し続けるためには、発注企業とベンダーが共にリスクを管理し、対策を講じる必要があるからです。リスクが発生した場合には、ベンダーが適切な是正措置を提案し、必要な追加費用を正確に見積もることが求められます。これを怠ったベンダーは、プロジェクト管理義務違反に問われる可能性があります。

ベンダのリスク開示に対する発注企業の姿勢

ITプロジェクトにおいて、ベンダーが内部のリスクを「実は…」と打ち明けてきたとき、発注企業の対応が重要です。多くの発注者は、ベンダーのリスクを「それはお宅の都合でしょ」と突き返してしまうことがあります。しかし、このような反応はプロジェクトの成功にとって逆効果です。ベンダーがリスクを開示してきた場合には、その情報を受け止める姿勢が求められます。リスクが発覚することで、発注企業とベンダーが共に対策を講じる機会が生まれるからです。

また、リスク開示を促進するためには、言いやすい雰囲気や、情報をオープンに共有するためのルールを事前に設定しておくことも重要です。例えば、定期的なリスクレビューの場を設けたり、リスク報告の際には建設的なフィードバックを行うようにすることで、ベンダーが安心してリスクを報告できる環境を整えることができます。このような対応が、プロジェクトの円滑な進行と成功に繋がります。

発注企業とベンダーの協業

ITプロジェクトでは、発注企業とベンダーが協力してプロジェクトを進めることが不可欠です。発注企業は単なる「お客様」ではなく、プロジェクトの一員としての役割を担うべきです。ベンダーに全てを丸投げすることは、プロジェクトがうまく進行するためには適切ではありません。発注企業は、プロジェクトの進行に関与し、協力しなければなりません。

実際に、発注企業が協力しなかったためにプロジェクトが失敗したケースもあります。例えば、ある金融機関のシステム再構築プロジェクトでは、発注企業がベンダーの指摘に対して反応せず、必要な情報を提供しなかったために、プロジェクトが大幅に遅延しました。このような事態を避けるためには、発注企業がプロジェクトに積極的に関与し、ベンダーと協力する姿勢が求められます。

リスク管理の文化の違い:米国と日本の比較

米国では、リスクを発注企業と共有する文化が一般的です。ベンダーが抱えるリスクも発注者に伝え、共に対策を講じることが求められます。しかし、日本ではこの考え方が十分に浸透していません。日本では、発注企業がベンダーのリスクを突き返す傾向があります。発注企業側にも、ベンダーが抱える内部リスクや耳の痛い話を受け入れる度量が必要です。

例えば、米国の大手IT企業B社は、リスク管理において非常にオープンな文化を持っています。リスクが発生した場合には、発注企業に即座に報告し、共に対策を講じます。このようなオープンなコミュニケーションがプロジェクトの成功に繋がっています。一方、日本では、リスクを隠す傾向があり、発注企業との信頼関係が築けず、プロジェクトが危機に陥るケースが見受けられます。

ベンダー選びのポイント

基幹システム再構築において、信頼できるベンダーを見つけるためには、単に相見積もりを取るだけでは不十分です。実際に担当者と面談を重ね、プロジェクトに対する理解度やリスク管理の姿勢を確認する必要があります。プロジェクト管理義務を理解し、リスク開示を厭わない企業姿勢を持つベンダーを選ぶことが重要です。

ベンダーが「お任せください」と繰り返すだけでは、プロジェクトが成功する可能性は低いです。特に、 スケジュールや要件が変わると、その影響を正確に見積もり、対策を講じることができるベンダーを選ぶべきです。これにより、プロジェクトの成功率が大幅に向上します。

まとめ

ITプロジェクトの成功には、発注企業とベンダーが協力し、リスクを共に管理することが不可欠です。ベンダーが抱えるリスクを隠さずに開示し、発注企業と共に対策を講じる姿勢がプロジェクトの成功に繋がります。リスク管理の文化の違いに注意し、信頼できるベンダーを選ぶことで、プロジェクトを成功に導くことができます。発注企業とベンダーが協力してプロジェクトを推進することが、最終的な成功への鍵となります。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。