システムベンダー依存からの脱却:RFP(提案依頼書)作成力が鍵

2024/10/21

はじめに

システム導入を検討する際、多くの経営者が直面するのが「対価に見合わないシステムベンダー」に出会う確率が非常に高いという現実です。過去にIT投資を行った経験のある方であれば、適切な成果が得られなかったり、期待した効果に遠く及ばなかったプロジェクトがあったことを振り返られるかもしれません。実際、私たちがクライアントの過去のIT投資状況を調査すると、その多くが厳しい結果に終わっていることが判明しています。

企業経営にとって、またその資金を供給する金融機関にとっても、IT投資が意味のあるものでなければ、その投資自体が失敗と言わざるを得ません。しかし、そのような失敗を回避し、投資を最適化するためには何が必要なのでしょうか。答えは「発注力の強化」、つまりRFP(提案依頼書)を正しく作成する能力を高めることにあります。

本コラムでは、IT投資の効果を最大化するために、RFP作成力がなぜ重要なのか、そしてどのようにしてその力を養うべきかについて解説します。


IT投資の効果を上げるためには「発注力」が重要である

IT投資の成功は、技術やシステムの導入だけにかかっているわけではありません。むしろ、どのようなシステムを導入し、それによって何を達成したいのかを明確にする「発注力」が成否を分けます。
この発注力を強化するための鍵がRFP(提案依頼書)です。RFPを適切に作成できる企業は、自社のニーズに合ったシステムを効率的に導入し、最適な効果を引き出すことが可能になります。
逆に、この力が弱ければ、投資した資金や時間が思ったほどの成果を上げられないリスクが高まります。

日本企業のIT投資対効果に格差が出る理由

同じようにIT投資を行っている企業でも、その効果に大きな差が生じる理由のひとつは、RFPに対する投資意識の違いにあります。

私がこれまでに相談を受けた顧客の過去の発注状況を調べてみると、しっかりとしたRFPを書けていた企業は皆無であり、ほとんどが「表面的なRFP」のレベルにとどまっていました。 例えば、多くの企業が共通して抱える「即時性」、「可視化」、「連携」、「二重入力の排除」、「一元化」といった課題は、一見すると分かりやすいテーマです。

しかし、それらが具体的にどうして自社にとって問題なのか、その解決によってどのような成果を期待しているのかについて、しっかりと分析されたRFPはほとんど見られません。つまり、課題が抽象的に表現されているだけで、その企業特有の問題として深掘りされていないのです。
そのため、問題点の分析が非常に浅く、表面的なものでしかなく、結果としてRFPに書かれている内容も「何をしたいか」という要望レベルにとどまっていることがほとんどです。

このように、具体的なニーズや期待する成果が明確でないため、システムベンダー選定やシステム導入が的外れになり、投資効果に大きな格差が生じているのです。 つまり多くの日本企業は、システム導入に際してRFP作成に十分な時間やコストを割いておらず、これが大きな問題となっています。

RFPは、要件を詳細に定義し、プロジェクトの目標や成果を明確にするための重要なプロセスです。
しかし、このプロセスにリソースをかけなければ、適切なシステムベンダー選定ができず、システム導入が失敗に終わるリスクが高まります。
結果として、IT投資の効果に大きな格差が生まれるのです

システムベンダーに依存した発注の問題点

日本企業のIT投資の現場では、システムベンダーが提案書という形式で、顧客が本来行うべきRFPの作成を代行するケースが一般的です。
これにより、顧客側の負担は軽減されるように見えますが、実際には問題が生じます。

システムベンダーに依存することで、顧客側が本来持つべきシステムに対する明確なビジョンや要件が不明確なまま、プロジェクトが進んでしまうことが多いのです。
このような状況では、ベンダー側の都合でプロジェクトが進みがちで、結果として企業にとって最適なシステム導入が実現しにくくなります。

システムベンダーの功罪

システムベンダーには、ITプロジェクトにおいて重要な役割を果たす一方で、問題点も存在します。
ベンダーの営業部門は、顧客のシステム導入意欲に対して迅速に対応し、受注を優先することが多いですが、この「迅速さ」が必ずしも顧客の利益に繋がるとは限りません。

システムベンダーの「功」の部分は、彼らが豊富な経験と専門知識を持ち、短期間で顧客の要望に応じた提案をまとめ、プロジェクトを立ち上げる能力にあります。
システム導入を急ぐ企業にとって、こうしたシステムベンダーの迅速な対応は非常に助かるでしょう。
システムベンダーの豊富なノウハウや技術的な支援が、顧客のニーズに合致すれば、効率的で効果的なシステムが導入される可能性もあります。

しかし、「罪」の部分として、システムベンダーが受注を急ぐあまり、顧客のニーズを十分に引き出さないままプロジェクトを進めてしまうことが問題です。これにより、顧客が本当に必要としているシステムとは異なる方向でプロジェクトが進行するリスクが生じます。
また、顧客の側もRFPの作成や要求の明確化をベンダーに任せきりにしてしまうことで、プロジェクトの成果が期待を下回る結果になりがちです。
システムベンダーがスピーディに対応することが求められる反面、顧客のビジョンや要件を十分に反映させるプロセスを省略してしまうことが問題の根本にあります。

システムベンダーに頼るだけでは競争相手には勝てない

IT投資が成功するかどうかは、企業が自らの目的や目標をどれだけ明確にできるかにかかっています。
システムベンダー任せにするのではなく、顧客自身が何を達成したいのか、どの程度の予算をそれを実現するのかをはっきりと定義することが必要です。

さてここで疑問になるのが、なぜ企業は発注にこれだけのパワーを割かなければならないのかという点です。
答えは、システムベンダーの力量には大きなばらつきがあるからです。
特に先端的な分野で差別化を求める場合、システムベンダー企業全体の力量よりも、プロジェクトに参加する個々のメンバーのスキルや経験が結果に大きく影響します。このような状況下ではシステムベンダー任せにせず、企業側でしっかりとした発注チームを組織し、発注プロセスに十分な力を注ぐことが求められます。システムベンダーに頼るだけでは、競争相手より優れた成果を出すことは難しいのです。

成功のカギは事前のリソース投資にある

RFP作成には、十分な時間とコストをかけることが必要です。
適切なRFPを作成することで、システム導入の成功確率が飛躍的に高まり、結果としてIT投資の効果も最大化されます。RFPは単なる書類ではなく、企業の将来に大きな影響を与える重要なツールです。
経営者や事業部責任者は、その価値を認識し、必要なリソースを確保することで、IT投資を最適化し、競争力を高めることが可能なるのです。

最後に

IT投資を成功させるために、企業が最も注力すべきは「発注力」の強化です。
この「発注力」とは、RFP(提案依頼書)を的確に作成する能力であり、これがシステム導入の成否を左右します。
発注力が高ければ、自社のニーズに最も適したパートナーを選定し、プロジェクトを成功に導くことが可能です。

なぜ「発注力」がこれほど重要なのかについては、システムベンダーの能力には大きなばらつきがあるからと述べました。こうしたばらつきがある中で「発注力」を強化し、適切なパートナーを選ぶことが、競争優位を確立するために不可欠です。

そのため、企業はシステムベンダーに過度に依存せず、社内で発注チームをしっかり組織し、RFP作成や要件定義に十分なリソースを投入することが求められます。「発注力」を鍛えることこそが、IT投資を最大限に活かし、企業の成長と競争力を高める最も効果的な方法なのです。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。