助言だけでは終わらない!実行力を支える「伴走支援」の重要性

2024/12/05

これまで多くの企業からご相談を受ける中で、私はしばしば次のような印象を抱いてきました。

「伴走する」という表現を使うと、相手のニーズに深く響く。
多くの企業は、ただ助言を受けるだけではなく、実行や完成までしっかりと支援してもらいたいと考えているからです。
一方で、「提案だけ」というスタンスにとどまるコンサルティングに失望したという声も少なくありません。
助言は受けたものの、それをどう実行に移し、成果に結びつけるかという部分で苦労しているケースが非常に多いのです。

これらの経験から感じるのは、企業が本当に求めているのは「伴走支援」だということです。
助言だけでなく、実行段階に踏み込んで支援を行い、プロジェクトを成功に導く。
そして、その過程で企業自身の自走力を高める。これが現代のコンサルティングに求められる役割ではないでしょうか。

本コラムでは、「伴走支援」の重要性と、それが企業の内部能力向上や自走力の醸成にどのように寄与するのかを解説していきます。

序章:助言だけではプロジェクトを進められない現実

従来のコンサルティングは、企業に対して高度な助言を提供し、課題解決の方向性を示してきました。
しかし、助言を受けただけで実際にプロジェクトを進めるのは容易ではありません。特に実行や実施のフェーズは、プロジェクト全体の中で最も多くの困難を伴う段階です。リソースやノウハウが不足し、現場の調整が必要となるこの段階で、計画が頓挫するケースが少なくありません。

こうした背景から登場したのが「伴走支援」というアプローチです。
伴走支援は、計画策定から実行、成果達成までを視野に入れ、企業と二人三脚でプロジェクトを進める形態を提供します。
助言だけでは不十分な理由と、実行を支える伴走支援の意義を掘り下げていきます。

第1章:伴走支援とは――企業の新たなパートナー像

伴走支援は、従来のコンサルティングがカバーしきれなかった「実行支援」を担う新しいアプローチです。
その特徴は、単なる助言提供にとどまらず、企業が直面する実行フェーズの課題に寄り添いながら具体的な支援を提供することにあります。
具体的には、以下のような支援が提供されます。

柔軟な相談対応:定例や都度相談など、状況に応じた支援
戦略から実行への一貫したサポート:戦略の具体化と、実行可能な形での落とし込み
現場との連携:ITシステム導入や業務プロセスの設計、ベンダーとの調整

これにより、企業は「実行力」の不足という課題を克服し、計画通りにプロジェクトを進めることが可能になります。

第2章:従来のコンサルティングと伴走支援の違い

従来型のコンサルティングは、主に課題の特定と計画の策定に焦点を当てていました。
しかし、その助言を実行に移すプロセスは、企業にとって非常にハードルの高い作業です。

1. 助言の実行が難しい理由

  • 実行フェーズで必要となるスキルやノウハウが企業内に不足している。

  • 計画を現場レベルに落とし込む際に、予想外の障害が発生するケースで、その対応は企業に委ねられることが多い。

  • 結果として、計画が形骸化する。

2. 伴走支援が解決できる問題

  • 伴走支援は、計画を具体的な行動に移すための細かなサポートを提供

  • 問題が発生した際には、即座に対応し、必要な修正を加えながらプロジェクトを進める

従来のコンサルティングが「計画まで」であったのに対し、伴走支援は「計画から実行、そして成果の達成」までを視野に入れた包括的なサポートを提供します。

第3章:知識とスキルの移転――内部能力向上の重要性

従来型のコンサルティングは、外部の専門家が解決策を提示し、企業がその助言を実行するという形式が一般的でした。
しかし、このアプローチには大きな課題があります。それは、企業内の人材が自ら解決策を生み出すスキルや知識を習得する機会が乏しく、外部への依存が続いてしまう点です。

伴走支援は、単に外部から解決策を持ち込むのではなく、企業内に知識とスキルを移転することを重要な目標としています。
これにより、プロジェクト終了後も企業が以下のような能力を獲得します。

  • 持続的な課題解決能力
    企業内で日常的に発生する課題にも対応できるようになる。

  • 自信を持った意思決定
    内部人材がプロジェクトに関与し、自分たちの手で解決に至るプロセスを経験することで、意思決定への自信が醸成される。

さらに、知識とスキルの移転は、プロジェクトだけでなく企業全体の組織能力を底上げします。
たとえば、あるサービス業の企業では新しいITシステムを導入する際、作業フローの改善手法や効率測定の方法の浸透により、従業員が改善プロセスに主体的に関与できるようになったのです。
知識が現場に十分伝わることで、従業員がそのシステムを活用した改善策を自ら考案できるようになります。
このような内部能力の向上は、外部依存を減らし、長期的な競争力を生む土台となります。

第4章:ノウハウの蓄積――企業が「自ら考え、行動する」力を育む

企業の持続可能な成長を支える鍵は、ノウハウの蓄積にあります。
一度きりの成功に終わるのではなく、成功のプロセスや教訓を組織全体で共有し、次に生かす仕組みを構築することが重要です。

伴走支援は、 単に問題解決の「答え」を提供するのではなく、「答えを見つける方法」を教えることで、企業内にノウハウを蓄積させます。
これにより、企業は以下の成果を得られます:

  • 再現可能なプロセスの確立
    同様の課題が再び発生した際にも、効率的に解決に至る方法論が存在する。

  • 組織全体での学習効果
    個人の成功体験が組織全体の知見となり、共有される。

たとえば、ITプロジェクトにおいて伴走支援を受けた企業は、要件定義やシステム選定の方法論を内部に蓄積することで、次回以降のプロジェクトでよりスムーズな進行を実現します。このノウハウの蓄積が、「自ら考え、行動する力」を育む基盤となるのです。

また、伴走支援は、企業が課題に取り組むプロセスそのものを重視します。
このアプローチでは、企業が自ら意思決定を行う経験を重ねることで、主体性が育まれます。
主体性は、変化の激しい市場環境において競争力を保つための重要な要素であり、伴走支援を受けた企業が長期的な成功を収める鍵となります。

 

第5章:伴走から自走へ――企業の成長を促す最終形

伴走支援の最終目標は、 企業が外部支援に依存せず、自らプロジェクトを進められる状態、すなわち「自走力」を醸成することです。
このプロセスには、以下の段階が含まれます:

  1. 初期段階:外部の伴走支援による主導
    専門家がプロジェクトをリードし、解決策の実行をサポート。

  2. 中盤:知識とスキルの移転
    プロジェクトを進行しながら、企業内の人材に必要なノウハウを伝授。

  3. 終盤:自走力の確立
    外部支援が徐々に減少し、企業が独自にプロジェクトを進行できる状態へ。

このプロセスを経た企業は、以下のメリットを得られます:

  • 迅速な意思決定
    外部の助言を待つことなく、自ら判断を下せる。

  • 柔軟な課題対応力
    変化する市場環境や新たな課題にも即座に対応可能。

  • コスト最適化
    外部支援への依存度を下げることで、コスト効率を向上。

たとえば、ある製造業の企業が伴走支援を活用して新しい生産管理システムを導入した事例では、プロジェクト終了後、企業内のチームが独自にシステムを改善し続け、効率を20%向上させる成果を上げました。このような自走力の実現は、企業の持続可能な成長を支える重要な要素です。

終章:未来の競争力を創る「伴走支援」

「伴走支援」の真の価値は、単なるプロジェクトの成功を超えて、企業やその社員の成長を促進する点にあります。
このような成長を表現する言葉として「イネイブルメント(Enablement)」があります。
イネイブルメントとは、「解」を外部から提示するのではなく、プロジェクトに参加した社員がそのプロセスを一緒に体感し、学び、成長し、戦力化されることを指します。

たとえば、プロジェクトの終盤でこんな言葉を聞いたことがあります。

「○○さんと働くと成長するんですよね。」

この言葉こそ、イネイブルメントの本質を表しています。伴走支援は、ただ課題を解決するだけではなく、社員一人ひとりの能力を引き出し、彼らがプロジェクトを通じて新たなスキルを習得し、自信を深める機会を提供します。

「伴走支援」が企業に提供する価値は、以下の点に集約されます:

  1. プロセスを通じた学習機会の提供
    プロジェクトの実行段階で、社員が自ら手を動かし、試行錯誤する中で成長する。

  2. 自己効力感の向上
    自分たちの手で課題を乗り越える経験を積むことで、社員が次のチャレンジに対して前向きな姿勢を持つようになる。

  3. 組織全体の競争力強化
    成長した社員が企業の次なるプロジェクトをリードし、外部依存を減らすとともに、組織の持続的な競争力を高める。

企業にとって、社員が成長し続ける環境を作ることは、長期的な競争力の鍵です。伴走支援は、社員の「成長の場」となり、個人の能力開発と組織全体の進化を同時に実現する手段です。

イネイブルメントが実現されることで、プロジェクトを終えた後も、企業内には新たな「成功の仕組み」と「実行できる人材」が残ります。
それは単なる成果物ではなく、未来のあらゆる課題を乗り越える力そのものです。

「伴走支援」を活用することで、企業は単なる一時的な成功にとどまらず、「社員が成長するからこそ企業も成長する」という好循環を作り出すことができます。この循環が、未来の競争力を創る鍵となるのです。

この記事を書いた人について

谷尾 薫
谷尾 薫
オーシャン・アンド・パートナーズ株式会社 代表取締役
協同組合シー・ソフトウェア(全省庁統一資格Aランク)代表理事

富士通、日本オラクル、フューチャーアーキテクト、独立系ベンチャーを経てオーシャン・アンド・パートナーズ株式会社を設立。2010年中小企業基盤整備機構「創業・ベンチャーフォーラム」にてチャレンジ事例100に選出。